これからの「性器」の話をしよう ——いまを生き延びるための感覚論

桃源郷ZINEに投稿した文章を公開するだけのブログ

ZINEが廃刊にいたるまで

 まず、経緯説明の前に触れておきたいのですが、関係者のお名前を出してよいのかわからず、さらには特定の個人に批判が集中したり、今回の発端となった(差別的な言動をしているわけではないのに桃源郷ZINEのアカウントからブロックされてしまった)方を今更これ以上煩わせることは避けたいので、具体的な個人名には言及しないことをご了承ください。

 ZINEのSNSアカウントの不適切な運用についてお話しする前に、すでに解散しているジェンダー桃源郷(以下、「桃源郷」と呼ぶ)について説明する必要があると思います。
 桃源郷は、ノンバイナリーやトランスジェンダーのためのセーフ・スペースでありコミュニティです。システムとしては、悪質なヘイターなどの参加を防ぐために参加希望者がGoogle formに記入し、立ち上げ人が問題ないと判断した場合にDiscordに加入するというものでした(自分が参加した際は)。当初の、メンバーがそこまで多くなかった時期にはみんな顔見知りのような感覚もあったように思うのですが、だんだんと参加メンバーが増えてきて、同時に自分が忙しくなってDiscordを読む時間を取れなくなったということもあり、途中からはあまり関わることができていませんでした。ただ、参加したいときはいつでも参加できたし、顔見知りでないと参加できないということもありませんでした。
 そのため、コミュニティではあるものの、その繋がりは桃源郷という括りではむしろ緩やかなもので、全員でなにかひとつの意志を持つようなタイプのコミュニティではなかったし(すべての構成員を把握しているような人はほとんどいなかったのではないかと予想します)、特に争いもなく(お互いを否定することがないという意味で)ゆるく平和なところだと認識していました。

 あるとき、桃源郷ZINEの企画が持ち上がりました。同人活動の経験のある方が発起人として企画してくださり、希望者が参加し、Discord内にチャンネルができました。参加希望者以外の方が桃源郷ZINEの細かな動向を知る機会はなかったのではないかと思います。くわえて、ZINEの内容についても、基本的にコミュニティのルール(一般的なグラウンド・ルールのようなものを想定していただければと思います)を破るような作品はNGとのことで、それ以外で細かく監督や指導が入ることはありませんでした。
 そのようなわけで、桃源郷ZINEは、桃源郷の公式企画ではありつつ企画参加者以外が関与する機会は特になく、ただ希望者が集まってZINEの発行に至った、と個人的には理解しています。一方で、参加者は原稿を書いて提出するだけで、それ以外の工程については企画者にほとんど丸投げだったのが(自分の理解している範囲での)実情です。各々に事情はあると思いますが、結果的にこのことが間違いだったのは言うまでもありません。

 ところで、ZINEとは直接関係のないことですが、桃源郷の運営がいわばボランティアということもあり、立ち上げ人の方から運営者の変更が行われました。運営チームに参加する意志のある別の方複数名に引き続きが行われ、その後も問題なく運営が行われていました。

 桃源郷ZINEのSNSの運用方法について指摘がなされたのは、こうして桃源郷の運営者が変わったあとのことでした。具体的には、悪質なヘイターなどでは一切ないアカウントの方からで、桃源郷のアカウントからブロックされていることへの説明がほしい、もしも差別発言などがあったならば指摘してほしい、とのことでした。自分が初めてそのことを知ったときは、なにかの間違いでブロックされてしまったのかもしれないと思いました。ブロックを解除し、謝罪をして、再発防止に努めることになるのだろうと、極めて楽観的な見通しすら立てていたくらいです。

 というのも、前提となる情報を整理すると、ZINEのSNSの運用についてブロックするツールを用いていることは聞いていたからです。けれどものちに公式が発表したように、個人用アカウントと同じものを使っていることはあとになるまで知りませんでしたし、どのような基準でブロックしているのかについて共有する体制にもなっておらず、これが問題でした。

 それから、SNSを不在にしがちな自分にもいくらか察知できる規模での問題提起になっていきました。それもそのはずで、桃源郷ZINEのアカウントがブロックを外すことも説明することもなかったからです。ブロックの基準の妥当性を問うものや、その基準がZINE参加者の総意によるものかなど、外部の方々からすれば当然の疑問で、このことには桃源郷ZINEのアカウントを通して適切に回答する必要がありました。この時点での詳細については運営チームが出した文章に譲りたいと思いますが、これまで述べてきたように運営チームは桃源郷のDiscordの管理を担当しており、ZINE企画やその広報について詳しく把握していたわけではなく、報告を受けてはじめて事態を把握し、急ぎ対応をしたのだろうと推察します。
 なぜこのような書き方になるのかというと、早急な対応を心がけてのことだと思いますが、SNSにアップされることになった画像4枚分の声明の内容を事前に知ることはなかったためです。だから自分に責任はないなどと言うつもりは一切なく、現実として、内部でのコミュニケーションが不足していたのは事実だと言わなければなりません。

 この段落で書くことは状況証拠的なものからの憶測でしかありませんが、おそらく運営チームとしてはなにかステートメントを出すという発想ではなかったのでしょう。ブロックの解除をするのに明確な基準を協議するわけにもいかないので(今回ブロックされてしまっていた個人だけブロックを解消すればよいという問題ではない一方で、明確な線引きをしようと思えばそれなりの時間と労力が必要になるため)悪質なヘイターを含むすべてのアカウントへのブロックを解除したうえで、桃源郷のなかで本件に直接関わった人々に事実確認をしたものをまとめて出したのだろうという印象です。けれどもある意味そのはずで、先に述べたように運営チームはあくまでも桃源郷のDiscordの運営を主に担っていた数人のボランティアであり、桃源郷ZINEの企画をしたわけでもなければそのSNSアカウントの運用に関与していたわけでもありません。のちに述べるように、だからあれが仕方ないとはまったく思わないものの、なぜこのようなことが起きたのかを説明するための前提としては共有しておく必要がある情報のように思いました。

 つぎに、内外で問題視された部分ですが、企画者の個人アカウントと同じブロッカーを用いていたことそれ自体が適切とは言い難いとはいえ(ただ個人的には、SNSでのトランスヘイト言説の現状と割けるリソースを思えば、個人のものを援用するということが現実的な選択肢のひとつだったことを責められる立場にはないと思っています)、いずれにせよブロッカーというツールを使っている以上、本来であればブロックされるべきでない人が何らかのきっかけでブロックされてしまうという事態は避けられないことのように思えます。

 これまで述べてきたように考えると、問題は以下のように要約することができます。

  1. SNSの運用についてもZINE企画者にすべてお任せし、参加者が主体的に関与することがなかった。
  2. ヘイターをブロックするためにブロッカーを用いる旨を記載し、何らかの手違いでブロックされてしまった場合の連絡先や対応策を用意しなかった。
    (もとより、誰が見ても悪質と判断できるようなもの以外のアカウントと距離を置きたいのであればミュートという選択肢もあったはずです。)
  3. 事態の収束に向けて対応を担うことができたのが設計上、運営チームのみであった。
  4. 外部から問題提起がされたのちにZINE参加者が加わることなく事実確認等が行われ、対応が決められた。そのようにしてZINE参加者不在のなか決定された方針に基づいて外部への説明がなされた。
    (管理チームによる声明の中身をあらかじめ知っていたら確実に止めていた、というのが本音です。)

 さらに、桃源郷ZINEがあくまでも非営利で参加者に各1冊配られるのみで残りは必要経費を除いて当事者コミュニティのために使われるという認識であり、桃源郷というコミュニティの公的存在としての性格を、自分を含むすべての関係者がきちんと意識することができていなかったということも指摘できるかもしれません。特にSNS桃源郷周りのことをほとんど追ってこなかった自分としては、桃源郷に関連する企画として影響力があるという話も、あとから指摘されて、そう言われるのならばそうなのかもしれないと思う程度には疎かったのが事実です。

 ここで、いくらか個人的に知り得る限りのご批判にお応えすると、1の部分についてのご批判はごもっともだと思います。申し訳ありません。また、2のような準備をしていなかったことが今回の事態を招いたということは言うまでもなく、申し訳なく思っております。そして、3と4についてどこまで自分が関与可能であったか今となってはわかりませんが、ZINEに参加していながら公的存在としての認識がなく、必要な準備を怠っていたことは間違いないのだろうと思います。申し訳ありませんでした。

 今更ではありますがZINE参加者として言えるのは、今回の件について、問題を指摘してくださった方々への非難はやめてほしかったです。それがZINE参加者の擁護を意図したものであっても、です。
 もちろん一般論として、こうした企画における適切な振る舞いの基準をどこに設定すべきか、という問題はあると思います。高い基準をクリアしなければ「LGBTQIA+のための」活動はできないということになれば、リソースのない人々はそうした運動に関わることができなくなってしまうからです。
 けれども少なくとも今回の件については、コミュニティの性質を考えると諸々の対応が残念なものだったと評価できる、というのが個人的な結論です。つまり、コミュニティへの差別の反対を標榜するのにどこまで責務を負うべきかという明確な基準は示すことができないものの、とはいえ、差別に反対する「LGBTQIA+のための」ZINEであるということを鑑みれば、再三にわたりなされた指摘に応答せず、最終的にあのようなお粗末極まりない報告文で幕引きを図ろうとしたのはさすがにあり得ないのではないかと思います。なぜなら、桃源郷の内部状況やZINE企画の経緯を知らない方々にとって桃源郷ZINEのTwitterアカウントは桃源郷の公式アカウントではないという説明は実態に即しているとは言い難いものですし、問題が起こり得る方法で運用していたのにもかかわらず特定の個人に責任を負わせるような釈明をしたのも無責任だからです。なぜあのような内容の報告を外部に向けてしようと思ったのか理解ができないというのが当初に抱いた率直な感想でしたし、一連の対応が不適切であったことは、いくらその指摘を非難しようとも変え難い事実のように思えます。

 とはいえ、運営メンバーやそのやり方に責任を転嫁したいのではありません。そうではなくて、単純にあのようなお粗末な対応しかできそうにないのならば他にできる人で対応すべきでした。運営といえどボランティアでみなさんお仕事だったりご自身の生活がありますから、限られたリソースのなかでできないことがあるのは仕方がないものの、できないならできないなりに別の人が協力する体制をつくってこられなかったところに問題があったのだと考えています。そのような意味でやはり、適切な対処がなされずにコミュニティが解散となったのは、貴重な時間や労力を割いてまで問題をご指摘くださった方々の責任ではないと言わざるを得ません。

 結局は、準備も意思疎通もすべてが足りていなかったのだと思います。なかでも自分はZINE参加者でありつつ、必要なだけの関与ができていませんでした。申し訳ございません。最後になりますが、応答がたいへん遅くなってしまいましたことを重ねてお詫び申し上げます。
(なお、自分は他の参加者を批判できる立場にはありませんので、今回お示ししたのは関係者個々人ではなくSNS運用の設計上の問題についての見解であることを申し添えておきます。)

 以上です。